連日、甲子園への出場権をかけた熱戦が繰り広げられている夏の高校野球。
負ければ終わりの一発勝負の世界では、勝利の女神はいつも気まぐれだ。
一つのプレーをきっかけに試合の「流れ」がころころ変わり、
時に信じられないようなドラマが生まれることもある。
ところが――。選手の間でも、野球中継でも、ファンの野球談議でも
当たり前のように語られてきたこの試合の「流れ」について、
「存在そのものを疑うべきだ」という検証結果を発表した社会心理学者がいる。
高校野球を取材していると、必ずといっていいほど、「流れ」という言葉に出くわす。
四球を出すと「流れを悪くした」、
ファインプレーでピンチをしのげば「良い流れ」で攻撃に入れた。
試合後のインタビューで監督や選手が決まって口にする。
そんなふうに、高校野球とセットで語られる「流れ」について、データに基づいて、
その存在に懐疑的な目を向けるのが、鹿児島大法文学部准教授の榊原良太さんだ。
「試合の結果を左右するような『流れ』の存在を示す十分な証拠は得られていません」。
そうキッパリ言い切った榊原さん。
「まずは、流れとは何かを考えてみましょう」と切り出した。
「いわゆる『流れ』は『勝ち負けや得点などの結果に影響する』
という前提で語られています。
何か一つのプレーがきっかけで、風向きや用具などの条件が変わることもないので、
変わるとすれば、選手の『メンタル』です。
私の研究では、『流れ』を『試合の状況や展開によって、選手のメンタルが変化し、
その後のプレーや結果に影響を与えること』と定義し、データに基づいて検証しました」
榊原さんが紹介してくれたのが、
高校野球における代表的な“流れ論”の一つである「四球」にまつわる研究だ。
四球は守備側にとって「流れを悪くするもの」というイメージがあるし、
「四球をきっかけにリズムを崩した」なんて表現をよく見かける。
ただ、榊原さんが「四球」と「ヒット」でランナーを許したときの
結果を調べてみたところ、意外な結果が出た。
調査したのは「その回の先頭打者にヒット(単打)を打たれたときと、
四球で出塁を許したときの失点確率と失点数」だ。
対象は2009~18年の夏の甲子園で起きた全ての「無死一塁」の場面で、
ヒットは1697例、四球が595例あった。
その結果、ヒットで出塁を許した場合の失点確率は43・60%、
その回の平均失点が0・877点だったのに対し、
四球の場合は失点確率が43・00%、平均失点は0・869点と、
ほぼ違いはなかった上に、むしろいずれも四球が下回った。
結果だけ見てみると、「流れを悪くする」はずの四球の方が、
失点する確率も失点した点数も少なかったのだ。
さらに、最も流れを悪くするとされる「エラー」にいたっては、
該当の158例を分析すると、平均失点は0・66点でヒットや四球よりも低かった。
「ヒットや四球は上位打線で出やすい傾向にあるが、
エラーはどこの打順でも起こるため」
と分析している。
榊原さんによると、同じような研究はプロ野球でも、
大リーグでもそれぞれ別の研究者が行っているそうで、
いずれも「四球とヒットの失点する確率に違いはない」という結果が出ているという。
榊原さんは「高校生年代の試合でも同様の傾向ということは、
四球かヒットかという違いが試合結果に影響を与えるほどのものではないと言えます」
と指摘する。
では、なぜ野球界で「流れ」が試合結果とセットで語られるようになったのか。
社会心理学者である榊原さんは「認識の錯誤が原因では?」と推測する。
榊原さんによると、人間には自分の経験則に基づいて物事を判断するクセがある。
野球でも、大事な試合で「四球」から失点したり、
注目を集めた試合が「四球」がきっかけで勝敗が決まったり、
そうした経験が指導者や選手の中に蓄積され、
明確な根拠のないままに広まっていったのではないか、という。
興味深いことに、榊原さんが「四球による流れ悪化説」について、
ヨーロッパでプロ野球選手としてプレーした人に話を聞いても
「現地でそんなことを言われたことはない」と答えたという。
「四球による流れ悪化説はもしかしたら日本球界独特のものなのかもしれません」
ちなみに、榊原さんも小中と野球に励み、今も大の巨人ファン。
そこで「本当に野球観戦をしていて『流れ』を感じることはないんですか?」と聞くと、
「もちろん、主観的に感じることはありますよ」と頭をかいた。
ただ、社会心理学者としては「『流れ』の存在を証明できていない」のがつらいところ。
友人から「流れが悪いよなぁ」と水を向けられると、少し複雑な気分になるし、
大学の講義でこの話をしても、熱心にスポーツに取り組んできた学生から
「流れは確実にある」「高校野球をやっていれば分かるはず」
と猛反発を受けることもある。
「野球が好きな人であればあるほど、激しく否定されますね」
それでも、この「流れ研究」は高校球児達にも知ってもらいたいと思っているという。
「当たり前とされることを疑って、事実やデータから物事を検証する。
そういう物の見方は、野球はもちろん、勉強や研究、仕事にも役に立つはず。
新しい視点を持つ助けになればと思い、研究を続けています」
と球児たちにエールを送った。
もっともっと膨大なビッグデータをスパコンで解析すれば
何かしら、「見えざる手」が見えてくるのかも。。
野球だけでなく、人間が携わる物事すべてに
「流れ」って存在しているような。。
だからこそ、こういった研究を更に進めていってほしいですね。
「流れ」なんて無いと思ってたけど、やっぱあったわ。何てことに。。笑
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