なぜ甲子園の応援歌は懐メロが多いのか?
高校野球の鉄板応援歌といえば、
昭和の歌謡曲にアニメの主題歌、
少し前に流行ったJ-POPなど、昔懐かしいラインナップがずらりと並ぶ。
パッと思いつくだけでも、『狙いうち』『サウスポー』『タッチ』
今の高校生達はまず知らない懐メロが見事に並ぶ。
しかも、長年の間、曲の顔ぶれがほとんど変わらない。
これはいったいなぜなのだろうか。
中高6年間吹奏楽部に所属していた経験から、
理由を考察してみたいと思う。
吹奏楽部に無いのは、予算か練習時間なのか?
まっ先に思ったのは、「吹奏楽部の予算がなくて楽譜が買えない」、
「コンクール時期なので練習時間がない」という2点。
まず、予算の問題について。
野球応援によく使われている歌謡曲とJ-POPの楽譜は、
吹奏楽経験者なら多くの人が青春時代を共に過ごした
ミュージックエイト社か、ウィンズスコア社の楽譜がほとんどで、
1曲あたり4,000~5,000円程度。
人気応援曲の
『アフリカン・シンフォニー』や『エル・クンバンチェロ』は、
ヤマハミュージックメディアの
“ニュー・サウンズ・イン・ブラス”シリーズで、
1曲約25,000円。こちらはそれなりの価格だが、
歌謡曲やJ-POPは「高すぎて買えない」という金額でもない。
もっとも、野球応援のためだけに楽譜を買うということは
ほとんどないと思われ、応援以外に、
他の演奏会でも使えるような楽譜を買うというケースが多いと思う。
それでは、
「コンクール時期なので練習時間がない」についてはどうだろう。
個人的には、朝から晩までコンクールの自由曲と課題曲ばかり
練習する夏休みは、はっきり言って飽きる(笑)。
なので、たまには気分転換にほかの曲も吹きたい。
基本的に、野球応援の曲はさほど難しくなく、
吹いていて楽しい曲が多い。
吹奏楽の強豪校の場合だと、数回楽譜をさらうくらいですぐに吹ける。
試合当日に楽譜を配り、「一発本番」という学校も少なくない。
というくらい、初見で吹ける比較的簡単な楽譜が多い。
つまり、そんなに練習しなくても吹ける、簡単な曲が多いということだ。
吹奏楽部が野球部に「曲は何がいい?」と聞くと……。
いくらでも楽譜は売っているし、
キャッチーでわかりやすい曲が多いから、難易度は高くない。
にもかかわらず、いまだに綿々と
懐メロを吹き続けているのはなぜなのだろうか?
学校にもよるが、野球応援をするにあたり、
「野球部に、吹いてほしい応援歌を聞く」という吹奏楽部も多い。
吹奏楽部が野球部に「応援歌、何がいいかな?」とたずねても、
「サウスポーがいい」「俺はトリトン!」など、
野球部員からあがってくる曲は懐メロばかり、という現実があるのだ。
いったいなぜなのだろうか?
野球部員に『血の騒ぐ曲は?』とリクエストを聞いても、
『憧れの先輩が打ったこの曲で』と、
おなじみの懐メロをリクエストされることが多い」と、
伊藤宏樹氏は話す。
同様の学校は多く、
「『アニメの曲でもAKBでも、何でも吹くよ』と言っても、
『アフリカン・シンフォニー』や『ルパン三世』など、
いつも同じ曲しか出てこないんですよ」と笑う。
「全国的に同じ曲を吹く学校が多いので、
うちならではのオリジナリティを出したいと思っているんですけどね」
とも。
アルプススタンドで吹奏楽の応援ばかり聴いている身としては、
出だしの音が鳴るたびに、「サウスポー!」「狙いうち!」
「タッチ!」などと、
イントロ当てクイズのように心身を研ぎ澄ませて構えているもので、
たまには「おっ! ?」と思う応援歌が出てきてほしい、
というのが本音だったりする。
吹奏楽部の生徒が「今年は新曲を3曲入れてるんです」と言うので、
「何の曲?」と聞くと、「トリトン、LOVE2000、ルパンです」と返ってくる。
一般的に「新曲」というと今年発売の曲のことをさすと思うのだが、
彼らにとっての新曲とは「今までにやっていなかった曲」のことらしい。
こうして、結局のところ
普通に懐メロがリクエストされてしまうということになってしまうのだ。
その点、今大会でいうと、初戦で敗退してしまったが、
点が入るたびにアルプススタンドに流れる、
おなじみ笑点のテーマ。ネット上でもずいぶんと盛り上がっていた。
つまり、「予算がなくて楽譜が買えない」でも
「コンクール時期なので練習時間がない」でもなく、
一番の理由は
「野球部員のリクエストが懐メロだから」ということ。
彼らにとっては、自分が生まれる前の曲だろうが、
歌詞を知らなかろうが、
アニメを見たことがなかろうが、一切関係ない。
「先輩がホームランを打った曲」
「決勝で負けた相手が吹いていたカッコいい曲」
で打席に立ちたいのだ。
長い間、高校野球における懐メロ問題について
悶々と考え続けていたが、
吹奏楽の応援目当てで甲子園に通うようになり、
その理由がはっきりとわかった気がする。
やっぱり、「おなじみのあの曲」が高校野球には似合うし、
ナインのみんなもその曲で打席に立ちたい。
そして、応援席もお茶の間も、
「なぜ懐メロばかりなんだろう」と思いながらも、確実に盛り上がるのだ。
近年の応援歌で、定着したのは『あまちゃん』くらいで、
今大会でも複数の学校が採用している。
ちなみに、昨年のヒット曲であるアナ雪の『Let It Go』は定着しなかった。
つまり、曲調もテンポも応援向きの曲ではなかったということだろう。
『あまちゃん』は明るくて楽しい曲なので、応援にもぴったりなのだ。
懐メロひしめく応援歌の中に、
新曲が入り込んで定着するのはなかなか容易ではないが、
引き続き注目して吹奏楽部の応援をウォッチしていきたいと思う。
これ、大好き!!!