ここは、米グラマン社の研究開発オフィス棟の一室。
次期FX戦闘機開発チーム主任、ギルバート・リトルリバーは嘆息をつきながら、
窓の外に目を向けていた。
それというのも、自らがチームのヘッドクォーターに立ち、
開発してきた前進翼実験機「X-29」の社内評価に結論が出たからだ。
大きなため息をつく、ということは無論、満足のいく評価ではない。
「この3年間というもの、トエニィナイン(X-29)に全てを費やしたおれの人生は、
なんだったのだ…」
結論からいうとX-29の開発目的である「前進翼戦闘機の実用性の検証」は達成された。
X-29は初飛行以降のテストフライトで、
既存の主翼形態の戦闘機では不可能な機動・旋回性能を立証した。
しかし、その一方で(モックアップの風洞実験の段階で不安材料として予測されていたが)
前進翼は、最高速度が伸びず、また燃料消費効率が悪い、
というデメリットを確認されてしまったのだ。
X-29に搭載している米ゼネラルエレクトロニック社の
「F404-GE-400」エンジンは、同様に搭載しているF-18ホーネット、
F-20タイガーシャークでは最高速度マッハ2級の領域に達するというのに、
X-29では、わずかマッハ1.6が限界であった…。
こうしたマイナス評価を並べられ、
X-29の開発プロジェクトは、中止命令が下されたのだった。
ギルバートは3年間、心血を注いだX-29の美しい機体を、
オフィスの窓越しに見るたびに、複雑な気持ちになるのだった。
「おれが作りたかったのは、戦争の道具なんかじゃない。
真っ青な空を、美しく優雅に飛ぶ飛行機が作りたかったんだ。
プロダクツ(生産)ラインに乗らなかったってことは、
トエニィナインが人殺しの道具にならなくて済んだということさ…」。
ここ数日 彼は、いつもそう自分に言いきかせていた。
これも実験機の宿命というものだ。
バァン!!
「ちょっと、ギル! 大ニュース、大ニュースよ!」
ギルバートと同じ開発チームのベッキー・ウッドマン女史が、
興奮気味にオフィスに入ってきた。
「ベッキー、なんだよ? 僕はもう、君とのブラックジャックには金輪際付き合わ…」
「ちがうのよっ、トエニィナインが買い取られたわっ!」
「ええっ?」
ギルバートは、一瞬ベッキーの言っている意味が理解できなかった。
X-29は実験機であって、社外の者に譲渡するものではない。
「今しがた、重役室に、買い取り業者が来て、
とんでもない金額で譲渡契約が成立したらしいの。
なんでもマッコイ商会とかいう口の悪いおじいさんで、
『わしは金さえだせば、クレムリンだって仕入れると言われておる人間なんじゃ!』
とかいって…。買い取り主は、大金持ちのジャパニーズらしいわよ。」
ベッキーは両手を挙げながら話した。
「やれやれ、金持ちのコレクションになるのか…」
「それが、そうじゃないのよ!
オーナーは、ジャパニーズらしいけど中東で実戦参加するんだって!
今、4番ハンガーで機首に20mm機関砲の装着と、
次期FX戦闘機開発チーム主任、ギルバート・リトルリバーは嘆息をつきながら、
窓の外に目を向けていた。
それというのも、自らがチームのヘッドクォーターに立ち、
開発してきた前進翼実験機「X-29」の社内評価に結論が出たからだ。
大きなため息をつく、ということは無論、満足のいく評価ではない。
「この3年間というもの、トエニィナイン(X-29)に全てを費やしたおれの人生は、
なんだったのだ…」
結論からいうとX-29の開発目的である「前進翼戦闘機の実用性の検証」は達成された。
X-29は初飛行以降のテストフライトで、
既存の主翼形態の戦闘機では不可能な機動・旋回性能を立証した。
しかし、その一方で(モックアップの風洞実験の段階で不安材料として予測されていたが)
前進翼は、最高速度が伸びず、また燃料消費効率が悪い、
というデメリットを確認されてしまったのだ。
X-29に搭載している米ゼネラルエレクトロニック社の
「F404-GE-400」エンジンは、同様に搭載しているF-18ホーネット、
F-20タイガーシャークでは最高速度マッハ2級の領域に達するというのに、
X-29では、わずかマッハ1.6が限界であった…。
こうしたマイナス評価を並べられ、
X-29の開発プロジェクトは、中止命令が下されたのだった。
ギルバートは3年間、心血を注いだX-29の美しい機体を、
オフィスの窓越しに見るたびに、複雑な気持ちになるのだった。
「おれが作りたかったのは、戦争の道具なんかじゃない。
真っ青な空を、美しく優雅に飛ぶ飛行機が作りたかったんだ。
プロダクツ(生産)ラインに乗らなかったってことは、
トエニィナインが人殺しの道具にならなくて済んだということさ…」。
ここ数日 彼は、いつもそう自分に言いきかせていた。
これも実験機の宿命というものだ。
バァン!!
「ちょっと、ギル! 大ニュース、大ニュースよ!」
ギルバートと同じ開発チームのベッキー・ウッドマン女史が、
興奮気味にオフィスに入ってきた。
「ベッキー、なんだよ? 僕はもう、君とのブラックジャックには金輪際付き合わ…」
「ちがうのよっ、トエニィナインが買い取られたわっ!」
「ええっ?」
ギルバートは、一瞬ベッキーの言っている意味が理解できなかった。
X-29は実験機であって、社外の者に譲渡するものではない。
「今しがた、重役室に、買い取り業者が来て、
とんでもない金額で譲渡契約が成立したらしいの。
なんでもマッコイ商会とかいう口の悪いおじいさんで、
『わしは金さえだせば、クレムリンだって仕入れると言われておる人間なんじゃ!』
とかいって…。買い取り主は、大金持ちのジャパニーズらしいわよ。」
ベッキーは両手を挙げながら話した。
「やれやれ、金持ちのコレクションになるのか…」
「それが、そうじゃないのよ!
オーナーは、ジャパニーズらしいけど中東で実戦参加するんだって!
今、4番ハンガーで機首に20mm機関砲の装着と、