ふつうの芝生と比べると、草丈は半分程度の約5センチ。 トヨタ自動車バイオ・緑化事業部が開発した 芝生用コウライシバの新品種「TM(ティーエム)9(ナイン)」だ。 あまり伸びないため、年数回の芝刈りが1回で済む。 同社が参加した中部国際空港計画で00年、設計を担当した社内の部署から 「手入れが楽な芝生を」と、要請されたのが開発のきっかけだ。 昨年2月の開港に間に合わせるため、5年以上かかる開発を3年に短縮。 量産が間に合わず全面採用はされなかったが、約700平方メートルの日本庭園に使われている。 ◆雑種の種で スピード開発できたのは、親として使ったシバが雑種なので、 種から生まれた子の性質が「十人十色」になる、という特徴のおかげ。 シバを増やすときは通常、一部分を切り取って別の場所に植える。種はまかない。 竹やバナナのように、切り分けた株の一部が新しい株になる「株分け」方式だ。 逆に既存の品種から種を取り、その中から欲しい性質の子が1株でも見つかれば、 新品種として育てられる。 ◆成長前選抜 開発期間を短縮するため、担当になった松井邦夫さん(38)は シバが成長する前に選抜する方法を考え出した。 まず、種まきした5万粒から葉が数枚出たところで、 葉が3センチ程度の短いものを「草丈が低くなるはず」と見込んで100株選抜。 それを直径12センチの植木鉢で育て、 早く鉢を覆うことが出来た10株を「横方向の増殖スピードが速い」と選んだ。 「大きく育てた後に特徴が変わる可能性もありハラハラしました」という不安を胸に 02年10株を本格的に育て始めると、草丈が高いものが続出するなど、大半が脱落。 思い通り育ったのは1株だけで、ぎりぎり救われた。 割り振った通し番号が9の株だったためT(トヨタ)M(ミュータント・突然変異)9と名付けた。 昨年1月、屋上緑化用に一般へ発売すると、家庭の庭やグラウンド用にも人気上々。 小売店向けの販売は半年後まで予約済みだ。 緑鮮やかで寒冷に強いなど、予期せぬ特長があったのも人気の理由かもしれないという。 松井さんは 「江戸時代に生まれたソメイヨシノのように 何世代も愛される芝生になれば育種家冥利(みょうり)です」と話す。 希望小売価格は1平方メートル1200円で、通常品種の2~3倍。 発売から今年度末までに8万平方メートル(東京ドーム2個分)を売る見込み。 一部の量販店で買える。 〈ひとこと〉 先日80代の祖母宅に行くと芝生が手入れしきれず荒れていた。 ここに植えれば祖母も楽だろう。高齢化社会に優しい商品かも。 画像は、一般の芝生(左)に比べ、約半分の草丈の「TM9」(右)。 2006/2/12 朝日新聞
F-1からプリウスから芝生まで~。